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議員定数削減は「身を切る改革」じゃない。比例だけ45減は、削る順番が間違っている

先に結論を書きます。私は議員定数を減らすこと自体に反対しているわけではありません。反対なのは「削る順番」と「削る対象」です。

いま自民党と日本維新の会が成立を目指しているのは、衆議院の比例代表だけを45議席削る法案です。小選挙区には手をつけません。一票の格差にも触れません。議員の歳費や政党交付金も別の話とされています。削られるのは、ただ比例代表の議席だけ。つまり、少数政党や新しい政党がいちばん議席を取りやすい場所だけが、狙い撃ちで縮められようとしているのです。

これを「身を切る改革」と呼ぶのは、無理があります。切られているのは与党の身ではなく、多様な民意の受け皿のほうだからです。

何が決まろうとしているのか

報道ベースで現状を整理しておきます。自民・維新は当初、昨年の臨時国会に「小選挙区25・比例20の計45削減」案を出していましたが、それを「比例45削減」へと組み替えました。与党は6月11日ごろにそれぞれ案を了承し、今国会での提出・成立を目指しています。維新は会期延長まで求めています。

法案には「自動発動」条項がついているのが特徴です。成立後に1年間、与野党で選挙制度改革を協議し、結論が出なければ自動的に比例45議席が削られる。つまり「話し合いがまとまらなくても、削減だけは確定する」という設計になっています。

衆議院は与党多数で押し切れますが、参議院は与党が過半数を割っています。だから成立の見通しは、正直まだ立っていません。それでも世論の追い風はあります。時事通信が6月中旬に行った世論調査では、比例45削減に賛成が53.4%、反対は15.7%でした。維新代表の吉村洋文・大阪府知事は18日、この数字を引きながら「改革のセンターピン。公約にも掲げてきた。実行の時が来た」とXに投稿しています。

数字を見れば、世論は明らかに削減寄りです。ここはごまかしません。

反対派こそ向き合うべき、賛成論のいちばん強い形

ここで、削減に賛成する人たちの主張を、いちばん強い形で並べてみます。弱い反対論を作って叩くのは簡単ですが、それでは説得になりません。

第一に、コストの問題です。物価が上がり、年金や社会保険料の負担が増えるなかで、国会議員だけが手厚い歳費とさまざまな特権を受け取っている。「国民に負担を求める前に、まず政治家が数を減らせ」という感覚は、ごく自然なものでしょう。

第二に、緊張感の問題です。小党が乱立して連立交渉ばかりが続くより、大きな政党が政権を争い、ダメなら政権交代で責任を取らせる——そういう二大政党的な仕組みのほうが、政治に緊張感が生まれる。比例を削るのは、その方向への一歩だという主張には筋が通っています。

第三に、約束の問題です。維新は「身を切る改革」を一貫した看板として選挙で訴え続けてきました。公約に掲げたことを、政権に入ったら実行する。これは政治家として、むしろ誠実な態度だと言えます。世論の53.4%という賛成も、その看板が広く支持されてきた証拠でしょう。

私は、この三つの主張はどれも本気で受け止めるに値すると思います。そのうえで、それでもこの法案には反対します。理由を順に書きます。

反論1:コストを言うなら、定数は本丸じゃない

まずコストの話から。議員を減らせば歳出が減る、というのは事実です。ですがその額は、国家予算のなかではごく小さい。議員1人あたりの歳費・手当を足しても年に数千万円の規模で、45人分を削っても国の一般会計(100兆円超)に対する比率は誤差のようなものです。

財政を本気で心配しているなら、減らすべきはまず議員一人ひとりに渡る歳費や旧文書通信交通滞在費、そして政党に配られる政党交付金(年間およそ300億円超)のほうでしょう。ここに手をつければ、議席の数を保ったまま「身を切る」ことができます。多様な民意の窓口を閉じずに、コストだけ削れるのです。

ところが今回の案は、歳費にも交付金にも触れません。削るのは議席だけ。「コスト削減」という看板の裏で、いちばん効く部分は温存されています。これでは財政論として整合しません。

反論2:削るのが「比例だけ」なのが、答えを語っている

二大政党制を目指すという主張も、それ自体は一つの見識です。問題は、その理想と「比例だけを削る」という手段の関係にあります。

衆議院の465議席は、小選挙区289と比例代表176でできています。比例は、得票率に応じて議席を配分する仕組みです。だから新しい政党や規模の小さい政党が、まず足がかりを得る場所になります。一方の小選挙区は、1位以外の票がすべて死にます。大きな政党に圧倒的に有利です。

その比例だけを45議席、約4分の1も削る。これは「二大政党に近づける」という以上に、「いま議席を持っている大政党に有利な配分へ作り替える」ことを意味します。改革を主導している側が、改革によって相対的に得をする。野党やいくつかの新興政党が「党利党略だ」「少数政党潰しだ」と反発しているのは、感情論ではなく、この構造を指しているのです。

そして見落とせないのが、得票と議席のずれです。比例を削れば、政党が集めた票の重みと、実際に得る議席数の差は広がります。「2割の票を得た勢力が1割しか議席を持てない」状況が起きやすくなる。それは効率化ではなく、民意の伝わり方が歪むということです。一度この方向に制度を変えると、得をした側が元に戻すインセンティブを持たないので、もう戻りません。国会審議に呼ばれた憲法学者の参考人も、得票と議席の乖離拡大や、大政党有利、不可逆性を理由に慎重論を述べたと伝えられています。

念のため断っておくと、ここから先は私の評価です。比例削減が「民主主義の後退」かどうかは、最終的には価値判断で、賛成する人を頭から間違いと決めつけるつもりはありません。ただ、制度の効果としてどちらに傾くかははっきりしている、と考えています。

反論3:一票の格差を放置したまま「定数」を語る矛盾

もう一つ、どうしても引っかかる点があります。一票の格差です。

最高裁は何度も、選挙区ごとの一票の重みの差が大きすぎる状態を「違憲状態」だと指摘してきました。これは比例ではなく、小選挙区側の問題です。人口の少ない地域の一票が、都市部の一票より重くなる。憲法14条の「法の下の平等」に関わる、長年の宿題です。

本気で「公正な定数」を論じるなら、まずここに手をつけるのが筋でしょう。ところが今回の案は、格差是正に直接つながらない比例だけを削り、格差の本体である小選挙区はそのまま残します。順番が逆だと思います。

さらに「自動発動」条項。1年協議して結論が出なければ自動的に削る、という仕組みは、一見すると「先送りしない決意」に見えます。でも裏を返せば、選挙制度という国家の根幹を、まともな合意がないまま時間切れで確定させるということです。立法府が議論を尽くして決めるべきことを、タイマーに肩代わりさせる。これは責任の放棄に近いと思います。

削減に反対なのではない。削り方を変えてほしい

整理します。私の立場は「定数削減そのものへの反対」ではありません。議員が多すぎるという国民の実感は本物ですし、それに応える政治があっていい。問題は、いまの法案が「コスト削減」「二大政党制」「公約実現」という三つの看板を掲げながら、実際にやっているのは「比例だけを削る」という、看板と中身のずれた一手だということです。

だから、こうしてほしいと思います。

第一に、比例の自動発動条項は撤回すること。期限切れで議席が消える設計は、選挙制度の決め方として乱暴すぎます。

第二に、定数を論じるなら、小選挙区の一票の格差是正、歳費・旧文通費・政党交付金の削減、そして比例の扱いを、同じテーブルに載せること。バラバラに「比例だけ」を抜き出さない。

第三に、そのうえで期限を切って結論を出すこと。協議を装った先送りも、タイマーによる自動確定も、どちらも要りません。必要なのは、削る対象と順番について正面から合意することです。

「身を切る改革」という言葉は強い。強いからこそ、何を切っているのかを見たほうがいいと思います。いま切られようとしているのは、与党の身ではなく、あなたが次に小さな政党へ入れるかもしれない一票の行き先です。削減に賛成するにしても反対するにしても、問うべきはそこではないでしょうか。


出典・参考

  • 衆院比例代表45議席削減で自民・維新が合意、自動発動条項を含む法案の経緯(2026年6月、X上の報道・関係者発信より)
  • 時事通信 世論調査(2026年6月実施):比例45削減への賛成53.4%・反対15.7%
  • 吉村洋文・日本維新の会代表(大阪府知事)2026年6月18日のX投稿「改革のセンターピン」
  • 衆議院の定数構成(小選挙区289・比例代表176=計465)/公職選挙法
  • 一票の格差に関する最高裁判例(「違憲状態」判断の累次)/日本国憲法第14条・第47条
  • 国会審議における憲法学者参考人の指摘(得票と議席の乖離、大政党有利、不可逆性)

確信度について: 法案の細部(提出日・成立見通し)や世論調査の数値は2026年6月19日時点で報じられている情報に基づくもので、今後変わりうるものです。一票の格差や比例代表の制度的性質に関する記述は確立した事実ですが、「比例削減=民主主義の後退」という評価は筆者の意見です。誤りが判明した場合は追記で訂正します。

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