プライマリーバランスとは ― 黒字化目標が25年も先送りされてきた理由
結論から言うと、プライマリーバランス(基礎的財政収支、PB)とは、借金(国債)に頼らずに、その年の政策に必要なお金を税収などでまかなえているかを示す指標です。黒字なら「今年の出費は今年の収入でまかなえている」、赤字なら「足りない分を借金で埋めている」という状態を表します。
近年の日本はずっと赤字です。そして政府は「いつまでに黒字にする」という目標を、2002年から何度も立てては先送りしてきました。いま高市政権は、その目標を「単年度ごと」から「数年単位」へと作り変えようとしています。順番に見ていきます。
プライマリーバランスとは何か ― 「利払いを除いた家計簿」
まず、国の収支を家計簿にたとえてみます。
ふつうの収支なら、収入(税収など)から支出(政策にかかるお金+借金の返済・利払い)を引きます。プライマリーバランスは、ここから過去の借金にまつわる部分を外して考えます。具体的には、
- 収入側:税収・税外収入(=新しく国債を発行して借りたお金は含めない)
- 支出側:その年の政策にかかる経費(=過去の国債の利払いや償還にあてるお金は含めない)
この2つを比べたものがプライマリーバランスです。つまり「過去の借金の利息は別にして、今年やる政策の費用を、今年の税収でちゃんと払えているか」を見る指標になります。
- 黒字(プラス)=その年の政策費を税収などでまかなえている
- 赤字(マイナス)=足りない分を新しい国債、つまり借金で埋めている
なぜ利払いを別にするのか。利払いは過去の借金の結果であって、今年の政策判断ではどうにもなりません。そこを切り離せば、「今の世代が、今の税収の範囲で暮らしているか」が見えやすくなる。だから財政の健全さをはかる物差しとして使われます。
ちなみに、プライマリーバランスが黒字でも、利払いがあるので国の借金(債務残高)がただちに減るわけではありません。あくまで「借金がこれ以上ふくらむ勢いを止める」一歩目、という位置づけです。
日本のプライマリーバランスはどうなっている?
赤字が続いています。日本の政府支出は税収だけではまかなえず、毎年の不足分を国債の発行で埋めてきました。
直近の数字を見ると、内閣府が2026年1月22日に経済財政諮問会議に示した「中長期の経済財政に関する試算」では、国・地方を合わせた2026年度のプライマリーバランスは約8000億円の赤字の見込みです。前回(2025年7月)の試算では3兆6000億円の黒字が見込まれていたので、わずか半年で黒字予想が赤字へと一転しました。
ただ、見る角度によって評価は分かれます。国の一般会計の「当初予算」だけで見ると、2026年度はプライマリーバランスが28年ぶりに黒字になりました。2026年度予算では税収が83.7兆円(前年度比+5.9兆円)と大きく伸びたことが効いています。
なぜ片方は黒字で、もう片方は赤字なのか。ざっくり言うと、対象範囲とタイミングが違うからです。
| 国の一般会計(当初予算ベース) | 国・地方ベース(試算) | |
|---|---|---|
| 対象 | 国の一般会計のみ | 国+地方+社会保障基金 |
| もとにする数字 | 当初予算 | 決算ベース(補正予算なども反映) |
| 2026年度の評価 | 28年ぶりの黒字 | 約8000億円の赤字 |
国が「黒字」とアピールする当初予算ベースには、後から組まれる補正予算や地方・社会保障の出費が入っていません。政府の正式な健全化目標は、より範囲の広い「国・地方ベース」で測ります。報道で黒字と赤字の話が同時に出てくるのは、この2つの物差しが混在しているからです。
黒字化目標は、なぜ25年も先送りされてきたのか
プライマリーバランスがこれだけ注目されるのは、政府が「いつまでに黒字にする」という目標を掲げ続けているからです。ところが、その期限はずっと後ろにずれてきました。簡単に振り返ります。
- 2002年:小泉内閣が「10年でプライマリーバランスを均衡させる」方針を打ち出す
- 2006年:「2011年度に黒字化」と目標化 → 2008年のリーマン・ショックで景気対策が優先され、事実上撤回
- 2010年:菅内閣が「2020年度に黒字化」を設定
- 2018年:安倍内閣が達成時期を「2025年度」へ先送り
- 2024年:骨太の方針で「2025年度の黒字化」を3年ぶりに改めて明記
- 2025年度:内閣府の試算で達成できず(一定の前提では約4.5兆円の赤字)
先送りの背景には、リーマン・ショック、東日本大震災、新型コロナと、そのつど大きな財政出動が必要になった事情があります。危機のたびに「まず景気・暮らしを守る」が優先され、黒字化は後回しになってきました。約四半世紀かけて期限だけが動いてきた、というのが正直なところです。
この経緯は、毎年6月の骨太の方針を読むときの土台になります。財政健全化目標がどう書かれるかは、政権の経済運営の姿勢がそのまま出る場所だからです。
いま起きていること ― 「単年度」から「複数年」への見直し
そして高市政権は、目標の立て方そのものを変えようとしています。
高市首相は2025年11月7日の衆院予算委員会で、「単年度ごとにプライマリーバランスの達成状況を見ていくのではなく、数年単位でバランスを確認する」方向に見直す考えを示しました。2026年3月17日の参院予算委員会でも、こう述べています。
例えばプライマリーバランス、単年度のものにこだわらずにまず見ていこうということ(中略)この過度な緊縮志向や未来への投資不足の流れを断ち切ろうとしている
(参議院予算委員会 2026年3月17日、国会会議録より)
高市政権が掲げるのは「責任ある積極財政」です。単年度の黒字化にこだわって支出を絞るより、危機管理や成長のための投資を進めるべきだ、という考え方が背景にあります。新しい目標の中身は、2026年の骨太の方針に向けて固めるとしています。
CIVIC AI編集部の視点
この見直しは「財政規律の緩和」とも「より現実的な目標設定」とも受け取れて、評価が分かれるところです。
擁護する側の言い分はこうです。単年度の数字は補正予算や景気の波に大きく左右され、政策の良し悪しと一致しないことがある。数年単位で見たほうが、無理な歳出カットを避けつつ財政の方向性を判断できる、と。
一方で、慎重な見方も根強くあります。25年間、期限を先送りし続けてきた歴史を踏まえると、「単年度をやめて複数年で見る」が、結果として目標のあいまい化や事実上の先送りにつながらないか。チェックの基準がゆるくなれば、長期金利や為替の動きを通じて、いずれ国民負担に跳ね返るおそれもある、という懸念です。
評価の分かれ目は、新しい目標が「いつまでに・何を・どの数字で達成するか」をどこまで具体的に書き込めるかにあります。抽象的な努力目標で終われば前者の利点は消え、後者の懸念だけが残る。だから、2026年の骨太の方針で財政健全化目標がどう書かれるかが、最初の試金石になります。
参考資料
- 中長期の経済財政に関する試算(2026年1月)のポイント(内閣府、2026年1月22日) ― 国・地方ベースのプライマリーバランスの最新試算
- 国会会議録検索システム 参議院予算委員会 第3号(参議院、2026年3月17日) ― 高市首相のプライマリーバランスに関する答弁
- 2026年度当初予算案のポイント ~28年ぶりの一般会計プライマリーバランス黒字化予算~(第一生命経済研究所、2026年1月) ― 当初予算ベースの黒字化と税収増の解説
- プライマリーバランス単年度黒字化目標の取り下げは財政健全化方針の転換か(野村総合研究所、2025年11月10日) ― 高市首相の目標見直し答弁と論点整理
- プライマリーバランス(SMBC日興証券 証券用語解説集) ― 指標の定義