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外国人受け入れへの怒り。しかし本当の敵は「賃上げから逃げる政策」では?

私は外国人を排斥したいわけではありません。問題にしたいのは、人手不足を「賃上げ」でも「省力化」でもなく「安い外国人労働の追加」で埋め続ける、この国の労働政策のほうです。怒りの矛先が外国人本人に向くのは、ずれている。でも、その怒りが生まれること自体は正当だと思います。

いまXでは「外国人が優遇されている」という投稿が、保守層だけでなく一部の左派も巻き込んで広がっています。新幹線が無料だとか、税金で手厚く補助されているとか、確かめようのない話も混じっています。確かめられない話は、ここでは使いません。けれど、数字で確かめられる事実のほうがよほど重いです。

まず、確かな数字から

厚生労働省の「外国人雇用状況」によると、2025年10月末時点の外国人労働者は257万1,037人。届け出が義務化された2007年以降の過去最多で、前年から11.7%増えました(厚生労働省)。13年連続の最多更新です(nippon.com)。

一方で、私たちの賃金はどうか。同じ厚労省の毎月勤労統計で、2025年の実質賃金は前年比マイナス1.3%。4年連続のマイナスです。名目賃金は2.3%増えたのに、物価の上昇に追いつかなかった(日本経済新聞JILPT)。

外国人労働者は2年で過去最多を更新し続け、私たちの手取りは4年連続で目減りしている。この二つの線が同時に動いているのを見て、「何かおかしい」と感じる人がいるのは、当たり前です。感情の問題ではなく、家計の問題なのですから。

単純な話ではないということ

人手不足を低賃金の外国人労働で埋め続ける政策は、人手不足の根本原因である「低い賃金」を温存し、結果として日本人を含む働き手全体の賃金まで上がりにくくしている。だから受け入れの「総量」を抑え、賃金が上がらない産業に安い労働力を流し込む蛇口を締めるべきです。

外国人を減らせばいい、という単純な話ではありません。問題は「数」そのものより「入れ方」にあります。賃金で人を集められない産業が、賃上げの代わりに制度で人を補充できてしまう。その構造を断たないと、何度でも同じことが起きます。

なぜ「賃金が上がらない」のか

人手が足りなければ、雇う側は賃金を上げて人を奪い合う。それが嫌なら機械化や省力化に投資する。どちらにせよ、足りない労働は「高く」なるはずです。これが本来、働き手の手取りが増えていく仕組みです。

ところが、足りない分を外から安く補充できるとどうなるか。賃上げをしなくても人が集まる。省力化投資もしなくて済む。「人手不足なのに賃金が上がらない」という、本来ありえない状態が固定されます。介護、建設、農業、外食——人手不足が深刻だと言われる分野ほど賃金が低いままなのは、偶然ではないと思います。

政府は特定技能制度で、2024年度からの5年間に約80万人(805,700人)を受け入れる見込み数を立てています。さらに技能実習に代わる「育成就労」制度が2024年6月に成立し、2027年ごろの施行が見込まれています。育成就労分を合わせると、2028年度末までの受け入れ見込み数は約123万人にのぼります(出入国在留管理庁マイナビグローバル)。

これは「足りないから少し入れる」という規模ではありません。賃金が上がらない産業に、向こう数年で百万人単位の働き手を、制度として継続的に供給する設計です。蛇口は細く絞られるどころか、太くなっています。

正面から受け止めるべき賛成論

第一に、人手不足は本物だという主張。地方の介護現場では、職員が足りずにベッドを空けている施設があります。建設や物流では、担い手が高齢化し、このままでは社会インフラの維持すら危うい。「理屈はどうあれ、現に人がいない」という現場の声は、机上の労働経済学より重い。これは事実です。

第二に、人口構造の主張。日本の生産年齢人口は減り続けています。働く人が減れば、年金も医療も支える人がいなくなる。外国人に来てもらって働き手と納税者になってもらうのは、社会保障を維持するための現実的な選択だ——この論理には筋が通っています。日経・テレビ東京の調査でも受け入れを「広げるべきだ」が45%と、「広げるべきではない」の46%とほぼ拮抗していました(日本経済新聞)。経営トップに限れば9割超が拡大に賛成しています(日本経済新聞)。

第三に、人道と国際的責任の主張。来てくれた人たちは、私たちの生活を実際に支えています。コンビニの深夜も、介護の夜勤も、彼らなしには回らない。その人たちを「コスト」や「数」としてだけ語るのは、人として狭量ではないか。この問いは、まっとうです。

この三つをどれも軽く扱う気はありませんが、そのうえで、なお受け入れ総量の抑制を主張します。理由を書きます。

反論1:人手不足は「賃金不足」の別名であることが多い

「人がいない」のは事実です。でも、その多くは「その賃金では人が来ない」という意味です。同じ仕事でも待遇を上げれば応募が戻る、という例は現場にいくらでもあります。人手不足と賃金不足は、しばしば同じ現象の表と裏です。

だとすれば、外から安く補充することは、現場を一時的に楽にする一方で、賃金を上げる圧力を逃がしてしまう。痛み止めではあっても、治療ではありません。むしろ病気を長引かせる。介護や建設の賃金が低いまま放置されてきたのは、補充という痛み止めがいつでも手に入ったからではないか、と私は疑っています。

反論2:社会保障を言うなら、なおさら「賃金」が要る

人口減を支えるために働き手と納税者を増やす、という論理は正しい。でも、その人たちが低賃金のままなら、納める税も社会保険料も小さいままです。支え手を「数」で増やしても、一人ひとりの賃金が低ければ、社会保障の土台は思ったほど厚くなりません。

本当に社会保障を支えたいなら、外国人も日本人も含めて、一人あたりの賃金が上がる経済にするしかない。低賃金を温存する受け入れ方は、その目標と矛盾します。これは外国人を排除する話ではなく、来てもらう以上は「安く使い潰さない」前提を制度に組み込むべきだ、という話です。

反論3:怒りの矛先を外国人に向けさせているのは、説明を怠った政治だ

読売新聞と早稲田大学の調査では、外国人の受け入れ拡大に「反対」が59%に達し、前年の46%から急増しました(ニッセイ基礎研究所)。この急変を「排外主義が広がった」の一言で片づけるのは、たぶん間違いです。

手取りが4年も目減りするなか、働き手だけが過去最多で増えていく。その理由を政府がきちんと説明してこなかった。空白に、確かめようのない「優遇」の噂が流れ込んだ。怒りが外国人本人に向いてしまったのは、政治が因果関係を語らなかったツケだと思います。矛先がずれているのは事実です。でも、ずれさせたのは怒っている人たちではありません。

では、どうすべきか

傍観者の感想で終わらせたくないので、具体的に書きます。

ひとつ、特定技能・育成就労の受け入れ見込み数は、分野ごとの賃金水準と連動させるべきです。賃金が一定の伸びを示さない産業には、追加の受け入れ枠を認めない。「賃上げをしない言い訳」に制度を使わせない、ということです。

ふたつ、受け入れを認める条件として、省力化投資の実績を問うべきです。機械化で代替できる単純労働の枠は、計画的に縮めていく。

みっつ、来てもらう人には、日本人と同じ賃金・同じ社会保険を最初から保証する。「安いから入れる」を制度的に不可能にすれば、賃金を逃げ道にする動機そのものが消えます。これは外国人のためであると同時に、日本人の賃金を守るためでもあります。

最後に、私の前提を正直に書いておきます。私は労働経済の専門家ではありませんし、ここで挙げた処方箋が現場の人手不足をすぐ和らげる保証もありません。介護の現場で今日ベッドが空いている、という痛みに、賃金理論はゆっくりとしか効きません。そこは断定を避けます。

それでも、これだけは言えると思うのです。外国人を入れるか入れないか、という二択は、たぶん問いの立て方が間違っている。問うべきは「どんな賃金で、誰を、どう迎えるか」です。怒りを外国人にぶつけても、あなたの手取りは1円も増えません。締めるべき蛇口は、別のところにあります。


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