皇室典範も定数削減も副首都も、まとめて審議するから止まる。国会「抱き合わせ」の悪癖を今こそ断つべきだ
会期末まで、あと11日。永田町の空気は、正直ちょっと異様です。
7月17日に会期が切れる。それなのに衆議院はここしばらく、全野党が本会議も委員会も欠席するという、かなり異例の状態が続いています。テレビをつけても「与党の暴走」「野党の職場放棄」と、双方が相手を罵り合う映像ばかり流れる。X上でも似た構図で、リプ欄は毎日荒れています。
私はこの記事で、どの法案の中身が正しいかを裁定するつもりはありません。比例定数45削減にも、副首都構想にも、国旗損壊罪にも、皇室典範改正にも、それぞれ賛否の理由があります。個別に見ればどれも、賛成派・反対派の言い分にちゃんと筋が通っている。むしろ問題は別のところにあると思っています。この4本、なぜ全部いっしょくたに動かそうとしているのか、ということです。
何が起きているか
与党は衆院で数の優位を握っており、比例代表の議席を45削減する法案、災害時のバックアップ機能を持つ「副首都」を整備する法案、国旗の損壊・侮辱を処罰対象にする法案、そして皇室典範改正案という、性質のまったく違う4つの法案をまとめて成立させようとしています。
これに対し立憲民主党、共産党、国民民主党、れいわ新選組など野党側がそろって審議拒否に踏み切りました。与党は「時代遅れの戦術だ」「対案も出さず職場放棄している」と批判し、野党は「数の力で強引に押し通そうとしている」「合意形成のプロセスを飛ばしている」と反論する。世論調査では、ボイコットという手法そのものへの理解は乏しく「わからない」「賛成できない」が7割程度に上るとされます。一方で、皇室典範改正については「急ぐ必要はない」という回答も7割前後で、実はここも一枚岩ではありません。数字だけ見ると、どちらの主張にも一定の民意の裏付けがあるように見えてしまう。ややこしい話です。
高市内閣の支持率自体は65〜69%とまだ高水準で、政権基盤が揺らいでいるわけではありません。だからこそ余計に、なぜここまで審議が止まるのか、という疑問が残ります。
4本を並べてみると、優先順位も緊急度もバラバラ
比例定数45削減は選挙制度の根幹に関わる話で、本来なら与野党の幅広い合意が前提になるはずのテーマです。副首都構想は、首都直下地震などへの備えという防災の文脈で語られていますが、法的な位置づけや優先順位について異論も根強い。国旗損壊罪は、表現の自由と国家の象徴保護のバランスをどう取るかという、憲法論に近い論点を含みます。そして皇室典範改正は、女性皇族の身分保持と旧宮家男系男子の養子という、皇室の将来を左右する重い制度改正です。
正直に言うと、この並びを見たとき「なぜこの4本が同じ土俵に乗っているんだろう」と思いました。緊急性も、合意の熟度も、憲法上の重みも、てんでばらばらだからです。定数削減には維新の強い要望が絡んでいると報じられていますし、副首都も同様です。皇室典範改正のほうは、6月上旬に衆参両院議長がまとめた「立法府の総意」案がベースで、7党がおおむね賛成するところまで来ていた話です。本来なら、この皇室典範改正だけは他の3本と切り離して、先に決着させられたはずのテーマでした。
与党側の言い分にも一理ある
ここで、与党側の主張もフェアに見ておきたいと思います。定数削減も国旗損壊罪も皇室典範改正も、選挙公約や超党派の議論を経て積み上げてきた課題であり、いつまでも先送りにはできない、という言い分には筋があります。衆院で多数を得ている以上、正当な手続きを踏んで採決に進むこと自体は、議会制民主主義のルールの範囲内です。野党が対案を示さずボイコットだけを続けるなら、それはそれで説明責任の放棄だという批判も、的外れではありません。
一方で野党側の言い分も分かります。定数削減のような選挙制度の話や、皇室典範のような国家の根幹に関わる話を、幅広い合意なしに数の力で押し通すのは、テーマの重みに見合わない進め方だという指摘は、私も同意します。実際、野党は「比例45削減と副首都法案を引っ込めれば審議に応じる」という条件も示していたとされ、対話の余地自体はゼロではなかったようです。
だから「抱き合わせ」が一番まずい
双方の言い分を並べてみて、私がいちばん引っかかるのは、実は個々の法案の中身ではありません。性質も緊急度も合意の熟度も違う4本を、ひとまとめの「勝つか負けるか」の勝負に仕立ててしまったこと、それ自体です。
一括りにすると、何が起きるか。合意ができている案件まで、いちばん揉めている案件に人質を取られます。皇室典範改正は、6月時点で7党がおおむね賛成するところまで来ていました。それなのに、定数削減や副首都をめぐる対立に巻き込まれて、いっしょに止まっている。逆に与党側から見れば、皇室典範だけ先に切り出して野党の協力を得れば良かったところを、他の3本に固執したせいで、結局どれも通らないまま会期末を迎えかねない。どちらの側にとっても、得な状況ではないはずです。
これは実は、6月に皇族数確保策を巡って私が書いたことと、根っこは同じです。あのときは「皇族数の確保」と「継承資格」という、本来別の問いを一緒くたにするな、と書きました。今回はもっと露骨に、性質の異なる4本の法案そのものが一緒くたにされている。切り分けるべきものを切り分けない、という同じ失敗が、規模を変えて繰り返されている感じがします。
提案は地味です
派手な解決策はありません。私が言いたいのはただひとつ、この4本を切り離して、それぞれ単独で採決にかけるべきだ、ということです。
合意の熟度が高いものから順に片づける。皇室典範改正のように7党が大筋で一致しているものは、他の案件を待たずに単独で採決する。逆に、定数削減や副首都のように与野党の溝が深いものは、無理に会期内成立にこだわらず、閉会中審査や継続審議に回してでも、合意形成の時間を確保する。国旗損壊罪のように憲法論に近い論点を含むものは、公聴会など丁寧な手続きを踏む。当たり前のことですが、当たり前が守られていないから、いま国会は空転しています。
会期末までの残り11日、与党にも野党にも、勝ち負けの勝負ではなく、案件ごとに向き合ってほしいと思います。どの法案に賛成するか反対するかは、人によって違っていい。でも「性質の違うものを一緒くたにして、全部か無かの賭けにする」というやり方だけは、与党にとっても野党にとっても、そして何より有権者にとっても、損だと思うのです。
出典・参考
- 高市内閣の支持率:JNN世論調査65.9%(前月比-4.1pt)、他社調査で69%前後(2026年7月上旬)
- 全野党による本会議・委員会の欠席・審議拒否、会期末は2026年7月17日/各社報道・国会関係者のX発信(2026年7月上旬)
- 比例定数45削減法案、副首都法案、国旗損壊罪法案、皇室典範改正案が同時に審議対象となっている状況/産経新聞・FNN・Yahoo!ニュースほか各社報道
- 皇室典範改正案の骨子(女性皇族の婚姻後の身分保持、旧宮家男系男子の養子縁組)は2026年6月30日頃に閣議決定/毎日新聞ほか各社報道
- 衆参両院議長による「立法府の総意」案の取りまとめ・7党がおおむね賛成(2026年6月8日〜10日)/時事通信
- 皇室典範改正について「急ぐ必要はない」との回答が7割前後との世論調査/朝日新聞ほか報道
- ボイコットという手法への理解が乏しいとする世論調査結果(7割程度)/各社報道・X上の議論
注意事項: 会期末の日付、支持率の数値、各法案の一括審議状況やボイコットの経緯は、2026年7月6日時点でX上に共有されている報道・投稿に基づくものです。国会審議は流動的であり、この記事の公開後に事態が動く可能性があります。「4法案を切り離して個別に採決すべきだ」という主張は筆者の意見であり、事実関係の誤りが判明した場合は追記で訂正します。
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